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善き人のためのソナタ

善き人のためのソナタ_f0001378_22472862.jpg1984年の東ドイツ。社会主義のもと、国民を恐怖で忠誠を誓わせ、ひとり一人を完全に監視し支配していた暗い時代。
その中枢を担っていたのが、シュタージという組織でした。
そこに所属するヴィースラーは、上官グルビッツから「劇作家ドライマンとその恋人、女優クリスタを監視せよ」という命令を受けます。
彼自身、ドライマンは反体制のにおいを嗅ぎ取り、怪しいと思っていた人物。
優秀な監視員だったヴィースラーは、ドライマンの家中に盗聴器を仕掛け、昼夜監視し続けます。
ドライマンの周りには、反体制の芸術家達がひしめいていましたが、国家に職を剥奪された演出家イェルスカから、誕生日に一冊の楽譜を贈られます。
その直後、イェルスカは自殺をしてしまうのです。
それが『善き人のためのソナタ』でした。

「この曲を本気で聴いたものは、悪人になれない」

その言葉とともにこの曲は、ヴィースラーにとって催眠術のような変化をもたらすのですが・・・。


善き人のためのソナタ_f0001378_22492267.jpg一方、イェルスカの自殺にショックを受けたドライマンは決意をします。
この国家の現状を、西側のメディアを使って世界に告発する事を。
それは多くの危険を伴い、自分や恋人の命さえも奪いかねない賭け。
それを知ったヴィースラーは、上官への報告をする手を止め、見逃してしまいます。
この「善き事」が動かす、ヴィースラーとドライマン、恋人クリスタの運命。

この映画で感じたのは、まずほんの十数年前にこんな国家が存在し、戦争に負けても尚ナチスに匹敵するようなシュタージという組織があった事実への衝撃でした。
しかしそれよりもリアルだったのは、善い事をして、ドライマンを救ったはずのヴィースラーだったのに、クリスタの死によってやるせなさがどうしても消えない事。
恋人を裏切った後悔を抱きながら死んだクリスタは、国家が生んだ悲劇だったに違いありませんが、全てがうまくいく寸前で、かみあわなくなった歯車が生んだ悲劇が最後まで苦く残ります。
シュタージは、愛する人でさえ守れない、無力な人間に変えてしまう力を持ち、人間としての尊厳を奪ってしまう。
どれだけ多くの「声なき犠牲者」がいたことでしょう。

今でも大きな遺恨を残すドイツの暗い過去。
統一されて、自由になったはずなのに、幸せになりきれない旧東側の人々が数多くいるのは事実です。
しみじみといろんな事を考えさせられる秀作でした。
Commented by ten at 2007-02-20 23:37 x
シュタージだけでなく「旧東側」の国々には必ずあったね“秘密警察”って
チャウセスク政権下のルーマニアにも国民の1割にも当たる数がいた
今の日本で言ったら1200万人もの秘密警察の人間がいたんだよ
それに、かの有名なKGBは名前こそFSBに変わったけど、権力を取り戻しつつあって
悪名高き「ルビヤンカ広場の茶色い壁の建物」は、今も途轍もない力を持っている
そう考えると、決して「過去の話」では無いんだ・・・

国家が・・特に共産主義国家が継続繁栄していく為には「個人」はないがしろにされる
でもこれは資本主義国家でも目に見える形で目立たないだけで実際に行われてる事
いくら「民主主義」を唱えても、国家と言う体裁を維持していくためには
個人の権利や幸せなんか踏みにじられるのはどの時代でも、どの国でも同じことで
現代の日本人から見たら想像もつかない世界が世の中には実際にあるんだよね・・・

なんか映画の話から思い切り脱線しちゃったね ゴメン(^^;
Commented by Yong-suk at 2007-02-20 23:55 x
この音楽を聴いてると何か寂しい気がするのは私だけかな?
旧東ドイツをはじめ社会主義をかかげてた国で
人民に自由があった国って存在するのかな?
色んな国で住むと日本って安全で守られて生きてるって実感するよ。
どうも、しんみりしちゃtたわ<m(__)m>
Commented by gogolotta at 2007-02-21 20:09
☆tenにぃ
まあ、珍しい人がでてきたね!(笑)
こういう話をさせたら、天下一品だ(^-^;
どっから仕入れてくるの~?
確かに東欧には、共産主義から共和国になった国も多いけど、そんなに簡単にはなくなったりしないよね。ロシアしかり。
大好き007みたいなのが・・・。
日本もそうだろうけど、アメリカだって屈指の監視国家だもんね。
・・・なんてことを思いながら、観てました。
ようやくドイツも「戦中戦後のタブー」を題材にして、なかなか面白い映画を作ってるよ。

☆マダムYong-Suk
この曲、寂しいんだけど、音がぶつかってるからちょっとぞっとする・・・。
心もとない感じだね。
この映画はアカデミーの外国映画賞候補なんだよ。

>人民に自由があった国って存在するのかな?
ないです! 社会主義ってのは、統制された国家を作るから(かな)

>日本って安全で守られて生きてるって実感するよ。
大分危険になってきたとはいえ、まだまだ平和な国だよね。
私も外国に行くたびに思うけど、外国人にとってはそうじゃないと思う。
話が長くなるから、やめよう(^-^;
Commented by halcine at 2007-02-28 18:40
こんにちは、はじめまして gogolottaさん。私も「善き人のためのソナタ」は大好きな映画のひとつとなりました。冷静沈着で、ターミネーター(?)のようなヴィースラーが体温をもった人間に変わっていく姿にジーンとしました。
Commented by gogolotta at 2007-02-28 21:48
☆halcineさん
初めまして! コメントありがとうございます。
ヴィースラーの表情の変わり方、観ていてぐっとひきこまれました。
アカデミーの外国映画賞を獲得して、嬉しいです!
Commented by kimion20002000 at 2007-09-28 00:29 x
TBありがとう。
東ドイツ問題は、経済問題で語られることが多いけど、やはり冷戦時代のこうした傷は他の共産圏諸国も同様ですが、まだまだ癒えることはないでしょうね。
Commented by gogolotta at 2007-09-28 09:05
☆kimionさん
はじめまして! こちrこそTBありがとうございます。
旧共産圏の負の遺産は、まだまだ減ってはいませんね。
こうした暗い歴史は、戦後復興できた日本にとってさえ、まだ理解できない部分がたくさんある気がします。
by gogolotta | 2007-02-20 22:45 | 映画おたく | Comments(7)

つれづれに日々のことなど。たま~にですが。


by gogolotta